B:改造された悲竜 オスク・レイ
古代アラグ文明が、蛮神バハムートの捕獲にオメガを用いた事例。そして、アラミゴを巡る戦いで召喚された神龍の事例。
これらから、ワタシはオメガとドラゴンとの間に因縁を感じるのだ。つまり、宇宙的視野に立った場合、ドラゴンの故郷たる竜星と、オメガ文明の母星とは、対立関係……すなわち戦争状態にあったのではあるまいか。そのような悲劇的接触があった場合、オメガ文明が取る行動……。
おそらく、捕獲したドラゴンを、機械的に改造したことだう。
ワタシの仮説を証明する戦利品を楽しみにしているぞ!
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
あたしは困惑した顔で相方に小声で訴えかけた。
「ねぇ、頭のいい人ってこんなのばっかりなの?」
相方は苦笑いする。
人それぞれ生きる世界が違うから「まともな人」というのを定義づけするのは大変に難しいが、あたし達がシャーレアンに来てからというもの普通だなと感じる依頼人の比率がドカ下がりだった。研究対象に恋焦げれる内気な研究者に、皮算用で大枚をはたいて見栄を張る美食家、果てはあたし達をストーキングするかのように依頼を繰り出す学会転覆狂いの承認欲求お化けの助教授…。そして今目の前に座っているのは学会を追放された歴史生物学の教授だ。本人は明言していないが、助教授の紹介に違いない。だってそっくりなんだもの…。
初対面のあたし達に教授が放った第一声は「君たちはオメガが何たるかしっているか?」だった。
何とも哲学的な問いかけだが、相方とイチャイチャする事と明日の食い扶持だけを考えて生きているあたしには、まさにどうでもいい問いかけだ。あたし達が黙っていると教授は自動再生でも始めるか如くつらつら話し始めた。
「暁の報告によればドラゴン族の故郷たる母星である竜星とオメガの母星は戦争状態にあった。それは古代アラグ帝国がバハムートの捕獲にオメガを使用したことやアラミゴを巡る戦いで召喚された神龍の事例から私が感じていた両者の因縁とも合致する説であり、至極納得のいくものだ。だが、彼らは何のために争った?オメガ文明は極めて高度な機械技術を持っている。どうやって手に入れた?機械は自然発生はしない。では誰が作った?母星に指令系統があるのか?それは生身の人間なのか、人工知能なのか?
私の仮説はこうだ。オメガの母星において栄華を誇り優れた機械技術を持った生命体がオメガの始祖を作った。人工知能を搭載し、学習能力を持ち、確率論に基づく自己判断が可能な機械人形だ。それが兵器に準用され、やがて生命体の知能をも超えた。人工知能は自分たちを作った感情があり知能的にも劣る生命体を逆に自分たちの存在を脅かす敵と認識し、生命体を亡ぼし、オメガ文明は人工知能により統制された機械の星になった。機械に満ちた星は膨大な動力を必要とする。いずれ星の資源を食い尽くし、危機的なエネルギー不足が予測される。そこでオメガ文明は竜星の資源に目を付けたのではないだろうか。ここで注目すべきは、オメガ文明に生存本能が芽生えていることだ。他者から奪ってでも自己の存在を保存しようとする。これはまさに生存本能と言っていい。しかし、竜星にせよ、オメガの母星にせよ、人知の及ばぬ宇宙の果ての話でありその存在も仮説も証明のしようがないと私は諦めていたのだが…。」
教授はそこまで言うと持参した水筒をバッグから出すと飲み物をコップに注いで飲んだ。飲食店に持ち込みはよろしくない。あたしは店員の目が気になって思わずキョロキョロした。
「ウルティマトゥーレという場所があるね?いや、隠しても無駄だ。私も賢人会のはしくれだ」
「え…、隠してないけど…」
相方が反応したので黙って止めた。
「そこにいるそうじゃないか、竜族が。」
教授はまるであたし達が隠し立てしているのを暴こうとするように上目遣いにあたし達を見た。
「私の仮説を言おう。竜星とオメガ文明にそのような悲劇的接触があった場合、オメガ文明が取る行動…。おそらく、捕獲したドラゴンを、機械的に改造したことだろう。何故ならば、私なら必ずやるからだ」
どうやらこの人は歴史生物学者というよりマッドサイエンティスト向きらしい。
「つまり、メカドラゴンを探して来いって事?」
言いたいことを言い切ったらしく余韻に浸る教授に申し訳ないなと思いながらもあたしは口を開いた。
教授は顔を上に向けながら瞑っていた目を薄く開けていった。
「そうだ。そのメカドラゴンを調べれば何かが掴めるかもしれん。喜びたまえ、これは歴史的な検証だ」
「いるかいないか分からないものを探すの?」
相方が言ったその言葉にかぶせる様に教授は声を荒げた。
「黙らっしゃい!いないと決まったわけではなーい!これは検証のほんの手始めだぞ、弱音を吐くな!」
「え…?」
あたしと相方は言葉を失って顔を見合せた。